2014年6月20日金曜日

シカゴという都市の網膜

テレビの画面は心の眼の網膜です。
網膜は真実を映しだし、真実は網膜が映す断片です。
テレビの画面は心の眼の網膜である…というのはクロォネンヴァーグのビデオドロームの中に登場する印象深い言葉であるが、80年代の人々にはどこの家庭のお茶の間にもあるテレビという仮想的な網膜が、マックスヘッドルームよろしく、双方向なメディアとなって人々を逆に監視するというのもリアリティがある話だった。意外な事に21世紀の現代においてもテレビの役割はテレビのままで、その影響力は健在であるものの、いまだにほぼ一方向のメディアとしてのみ機能している。

Watchdogsよりリリース前イメージの一つ
来週国内でもリリースされるWatch Dogsの舞台はシカゴだ。2012年にリリースされたHitman Absolutionの舞台もシカゴだったが、この街が2つの作品に取り上げられた一つの理由、その特徴を挙げるとすれば電子の網膜に包まれた都市だという事だろう。シカゴほど監視カメラのある街はそうそうない。あらゆるストリート交差点にそれが存在するだけでなく、銀行やホテル、郵便局に大学、モーテルや個人商店などの建物内まで張り巡らされ、人々を今現在も見張っている。保険会社は不動産へガイドラインに沿った監視カメラの設置をする事で料金の値引きを実施し促進しているのだ。もはやメタルギアシリーズに登場する軍事施設の監視カメラ体制がザルに思えるほどシカゴにはありとあらゆる場所へ網膜が行き渡っている。


シカゴ警察が街灯に取り付けたストリートを見渡す監視カメラ
2010年にスティーヴ・ジョブズは高精細な自社の液晶ディスプレイをRetina(網膜)と呼んで大々的に発表した。エキスポが開かれ、多くのファンが見守る中、壇上で大々的に発表されるかはともかく、シカゴを監視する一つ一つの眼はいずれ近いうちに4K(4096×2160)解像度の単一な網膜としてアップデートされるだろう。ボストンマラソンの爆破テロ事件において、常設の監視カメラが既に十分に判別できるレベルで犯人の姿や顔を捉えていたが、そのイベントの特性上、観光客や記者カメラマンがとった高精細なストリートの写真の中にも爆弾魔の姿が見つけられていたのを覚えているだろうか?眼はやがて今日、楽しいイベントがあるかに関わらずともストリートを大写しに人々の顔を精細に捉えるだろう。

ボストンマラソン爆破テロ犯を捉えた監視カメラの映像
シカゴに住む住人の内、3分の1は黒人である。その多くはサウスサイドと呼ばれるエリアに住んでいる、ここはいわゆるゲットーだ。古くはジャズやブルーズ、現在はジュークのようなブラックミュージックの源泉であると同時に貧困と、そして犯罪が屯している。貧乏人を中性子爆弾で根絶やしにすれば犯罪率も下がるだろうと皮肉を歌ったのはビアフラだったが、根絶やしにこそせずとも、サウスサイドの住人たちはこの網膜というインフラの中で特に厳重に監視されている、そこはマシンガンタレットを搭載したトラックを駆る必要のない、残酷な地獄だ。

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