2015年4月24日金曜日

PCゲーマーは本当に違法ユーザーの巣窟なのか

別にコインは入れなくたっていいよ


その答えはおおむねYesであるが、近年はそれ自体が問題でなくなりつつある。

ゲロゲリゲゲゲの東京アナルダイナマイトという怪盤の中で山之内純太郎という人は、観客を“聴いてるだけの能無し野郎”と罵っていたが、Warezという特殊なシーンにおいて、ダウンロードするだけの能無し野郎とは大抵、金がないか、学がない、あるいはその両方が当てはまる人である。そもそもPCゲーマーは本当に違法ユーザーの巣窟なのか?という質問はズレている。PCゲーマーにはたくさんの普段日本円にして数十円のパッタイ(タイの米粉焼きそば)を食べて暮らす年収数十万円の若者達もいれば、気まぐれに十数万円のグラフィックボードを買おうがなんら日常生活に支障のでないような連中が混在している。当たり前だがそれらの人々が等しい割合で違法コピーに手を出しているのではない。年収1000万円のグループと年収100万円のグループでどっちにWarezerが割合として多いかという単純な話だ。50ドルのゲームを逆立ちしたって買えない貧乏人や、無知ゆえに他者の仕事に敬意を払う事、つまりは結局相応の対価を払うという当たり前の事ができない人がクラックコピーで遊ぶのだ。


卵のないパッタイは25バーツ、卵を一緒に炒めてもらっても100円ちょっとだ
これでも一応観光地価格として設定されていて、もう一段階安いローカル店が存在する。
じゃあ、そういう世界で西側の価格設定がされたゲームをはたして買えるのかという話だ。
まず前提認識としてPCとはすなわちパーソナルコンピュータ、個人の端末を意味するが第三世界においては、西側の最新ゲームが快適に動作するハイエンドマシンと高速なインターネット回線を自宅に個人で備えられるような層は極めて限定される。東南アジアの平均的な世帯年収5000ドルとかの家庭では1000ドルのミドルレンジマシンと年間400ドルの固定回線費用などまず払えないのである。また今日の第三世界における一般家庭のインターネットとは3G回線未満のモバイル通信だという事も西側の人間には容易に想像しづらい現実である。

しかし第三世界におけるPCゲームはハイソサエティにのみ許される遊びというわけではない。アジア地域の平均的なPCゲーマーとはインターネットカフェでゲームをする人達を指すのである。アジアのネットカフェは店舗への出入り自体は自由で、1時間あたり数十円のチャージでPCの利用(ゲーム)時のみ、専用のアカウントにログインする形態が今日ではポピュラーである。西側ではパーソナルなコンピュータとして個人に向けて販売されるものが、パブリックな場所で安価に時間貸しされる業務用機なのである。

ゼロ年代のフィリピンのネットカフェ、遊んでるのはたぶん殆どがDota Allstars(Warcraft3)
ゼロ年代はじめ、そんな第三世界の業務用機にお店がインストールするゲームはまず間違いなくクラックコピーだった。僕が中国でプレイしたCounter StrikeのひとつにダッキーだかドンキーのCounter Strikeというのがあった。これはwonnetをスルーしてグループが設置した大量の独自サーバに参加でき、Punk Busterは使わずに、より強力で軽いアンチチートプログラムをサイトからインストールすれば24時間いつでも対戦相手に困らないものだった(膨大な数の私家版CSが当時存在したが、このバージョンだけで数千人単位のプレイヤーが当時常時接続していた)。同様にWarcraft3の場合は正規のCD-Keyでない為にBattle.netには接続できないものの、代わりに第三者が作ったラダー(私家製の天梯)とLANゲーム変換プロトコルがあるのでH2HもRTGも、DotaもTDもRPGもなに不自由なく遊ぶ事ができたし、なによりここにもたくさんの人がいた。クラックコミュニティの栄える地域においては、逆転して正規版よりも厚いサポートとプレイ人口にシーンは発達する。

下载ってのはダウンロードの事で、中国のインターネットとはつまりダウンロードの事なのです。
ネットカフェにインストールされているのは、もれなくクラックされたCounter StrikeとクラックされたWarcraft3で、ほとんどのお客さんはCounter StrikeとWarcraft3を遊びたくて店に来るのだから、当然それを遊んだのだ。そしてたまに彼らはVBAやMAME、なんとなくWormsなんかも気分転換に遊んでいた。頭空っぽで財布も空っぽな中高生がコンビニに入ったら少年ジャンプを立ち読みするのと同じように、コップを逆さまにすれば水が地面にこぼれるように、それは自然な成り行きであり、お店もお客も等しく我々は割れ割れのナチュラルボーンISO之割男だったのだ。

近年はスカンジナビアのグループよりもここの方が活発ですね。
中国では箱に入って売られるゲームを…ネットカフェのPCにインストールされているのは大抵がクラックコピーなわけだが单机版だとか单机游戏(タンジーヨーシ)、すなわちスタンドアローンゲームと言う。今現在も中国のネットカフェのほとんどで、はじめからクラックされたCS、バージョンチェンジャーとサードパーティマッチメイキング付きの至れり尽くせりなWC3という10年選手の单机游戏がインストールされている(それも独自のクラウド型ランチャーによってだ)。しかしかつてのように誰もがそれで遊んでいるわけではなく、大抵の人(メインストリーム)は网络游戏、つまりオンラインゲームに流れていった。中国の場合はCounter StrikeとWarcraft3の代わりにその代替品であるCrossfireLeague of Legendsへ移行した(どちらもサービスはTencent Games)。この二大タイトルは中国で最大のプレイヤー人口を誇る今日最もプレイされるゲームであり、これにより大衆店におけるWC3はDota(Allstars)よりLOLやDOTA2にない雑なRPG MODを遊ぶために起動されるのを見る方が今では多いほどだ。(競争相手の少ないWC3 RPGシーンは驚くことに未だに一定のプレイ層が存在する)

Dota Allstarsのサードパーティ製 自動匹配(オートマッチメイキング)
そもそもBattle.netのカスタムゲームにマッチメイキング機能は存在しないので、
正規品だろうがクラックコピーだろうがこれとの合せ技でより快適なゲームが楽しめる。
同様にWC3 RPGのマッチメイキングとStat保管のサービスをやってる所なんかもあった。
つまり中国にとってWarcraft3とはそれ自体がオンラインゲームプラットフォームの一つだったのだ。
東南アジアや中国に比べれば遥かにクラックコピー利用の控えめな韓国のネットカフェ、PC BANG(協会が加盟店を一括的に管理し、そこにパブリッシャがライセンスを低価格で卸す形態を比較的早い段階で確立した。これの最たる成功例はStarcraftだろう。)ですら、店舗向けのライセンスを逆に卸さなかったタイトルはじゃあいいよねとばかりに、クラック版が無慈悲にインストールされていた。StarcraftやDay of Defeatは正規品でもRainbow Sixは得体の知れないクラックコピーがインストールされてて、ご丁寧にディレクトリにはnfoも置いてあるなんて中小の店舗はザラにあったし、MAMEなんかもポピュラーだった。これは日本でもアドアーズやラウンドワンみたいな所は絶対にいれないけど、一部のお客さんに熱狂的に愛されてる狭義のビデオゲーセン、ミカドやトライなんかがエミュ基盤を平気な顔して稼動させてる感覚に近いと思う。

フリーミアム時代に後手を取り苦しむQ-Bertくん。

韓国では箱に入って売っているゲームをPackage Gameと言うが、PC Bangではその呼称よりCD GAMEと呼ぶ場合の方が多かった記憶がある(これはDVDの時代でもCD GAMEだった、例えばCall of Duty Black OpsのクラックされたシングルプレイヤーモードはCD GAMEというフォルダに納まっていて不思議に思ったものだ)、対義語はやはりオンラインゲームだ。特にアジアではオンラインゲームとは近年の欧米で言うところのF2Pの事をニュアンスとして多く含むが、アジア型オンラインゲーム発祥の地である韓国では、その主流オンラインゲームを敢えて区別して言う場合ブブンユリョオンラインゲームという。部分有料という事である、嘘だと思うなら部分有料オンラインゲームでGoogle翻訳にかけて発音チェックしてみるといい。そして今現在韓国のPC Bangでプレイされる最大のタイトルは、やはりWC3というかDotaの代替品であるLeague of Legendsと、Sudden AttackというCounter Strikeのクローンである。あと敢えてその下に加えるならFIFA OnlineとかAionだろうか、とにかく殆どがF2Pの、部分有料の、基本料金無料(一部有料アイテムあり)の、呼び方なんてどうでもいい、つまりは、あのオンラインゲームなのだ。

2009年にGamespy Gotyの読者投票を勝利したのはLeague of Legendsだった。
しかしLoLが真に勝利したのはBlizzardが持て余していたWarezer達の奪い合いにおいてである。
PCゲームという畑はかつて違法ユーザーの巣窟であったが、それが問題でなくなりつつあるのは業界がかつてWarezerの貧乏人と呼んでいた腐ったパイを今では競って各社で奪いあっているからである。実際東南アジアの(ある程度のスペックを満たしたマシンが置かれている)ネットカフェの利用客はクラックされた店売りのゲームなんかに殆ど見向きもしないでF2Pのゲームに熱中しているのだ。世界から無知と貧困がなくなり、かつて年収十万円だった層が西側の中流並の暮らしになり、箱に入って売ってるゲームを買いまくってくれるという未来はありえなかったが、ゲーム業界が鼻つまみ者の貧乏人から金を稼ぐシステムを発明する事はなんと不可能ではなかったのだ。

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